日経のリンク制限問題で考える ネット時代の新聞社のあるべき姿

Tech Crunch Japanの日経のリンク制限に関する記事が削除

Tech Crunch Japanの日経のリンク制限に関する記事が削除された件が気になって、Tech Crunch本家の記事を見てみることにした。なんかアヤシイと直感したのだ。

Nikkei, Japan’s Business Newspaper, Pulls Some 2001 Anti-linking Tricks - Tech Crunch

・・・by John Biggs on Apr 9, 2010・・・Nikkei just pulled out its Learn HTML 1.0 in 48 Hours book and is now preventing links to its articles and severely limiting right clicking on its exciting home page.・・・According to the NYT, Nikkei not only stops right clicking but now requires a written application to link to its news・・・


Jon Biggs氏がおっしゃるには、日経のサイトは右クリックやページへのリンクを制限していて、申請書がないとページへのリンクができないらしい。

実際に日経のサイトを見てみると、確かに右クリックができない(なんで?これじゃタブで開けないじゃん)が、さっきチェックしたらページへのリンクは大丈夫だ。
琴線探査: ちょっと外部サイトからの日経サイトへのリンクチェックをしてみようか | 初夏に乗りたい行楽列車(何でもランキング) :日本経済新聞

無料閲覧部分はOKだけど、有料閲覧部分がNGだということか?

ところで、敬愛するTech Crunch Japanが、まさか自主規制したわけではないでしょうね?記事の正確性を検証するために一時的に削除しただけだと信じる。

10.04.11追記:
さすがTech Crunch Japan。記事が復活していた。
日本の経済紙「日経」が10年前のリンク防止策を最新のWebサイトに導入


日経の電子版に会員登録してリンク制限を確かめる

幸い、4月30日まで無料で見られるキャンペーンをやっているようなので、登録してみよう。利用規約とかが必ず出てくるはずだ。

日経ID 利用規約

・・・第22条 アンケートに関する利用者の禁止事項・・・利用者は、提供された情報を許可なく利用することはできません。回答ページのURLについて日経の許可なくリンクを 貼ったり、公開したりする行為も禁止します・・・

・・・第27条 免責および損害賠償・・・本サービスのサイトからは他のウェブサイトなどへリンクをしている場合があります・・・


利用規約で「リンク」という言葉がある部分は上の2箇所だけだが、うーん、別に問題ないような。第22条を誤解したのか?それとも、ここ数日で規約が変更されたとか?しかし、利用規約の後ろの方にある更新日付は「2010年3月1日改定」が最後だ。まさか、規約が黙って変更された?

結局、どこがリンク制限されてるのかわからなかった。有料会員でないと行けないところに行かないとわからないということだろうか。


例のニューヨーク・タイムズ紙の記事を確認する

Tech Crunchの記事中にあったニューヨーク・タイムズ紙の記事を見てみよう。
Japan’s Nikkei Newspaper Restricts Links to Its Web Site - NYTimes.com

・・・By HIROKO TABUCHI・・・But, in a twist, it also imposed a policy severely restricting links to its articles — or even its home page. Links to Nikkei’s home page require a detailed written application.・・・Toshinao Sasaki・・・ the Yomiuri ・・・more than 10 million・・・the Asahi・・・8 million readers・・・The New York Times, by comparison, has average daily sales of 928,000 papers. ・・・The Nikkei・・・three million・・・Yoshihiro Oto, a journalism professor at Sophia University in Tokyo. “They’re convinced openness doesn’t work.”・・・Japanese papers rely much more on home subscriptions than ads for revenue. But ad revenue has plunged in the wake of the global economic crisis.・・・That has prompted some papers to start charging for online content.・・・But much of the paper’s thinking about the Web is outdated,・・・Japan’s smaller papers・・・The Sankei Shimbun・・・ iPhone application・・・“There’s just no way we’d limit something like that,” said Ryuichi Sekiguchi, a spokesman for Sankei. “Linking should be free.”・・・


どうやら、技術的にリンクが制限されていることを言っているのではなく、リンクポリシーで制限されているという事を言っているようだ。

なるほど。ここだ。確かに書いてある。
リンクポリシー - 日本経済新聞 ヘルプセンター

これは別に今に始まったことではなく、相当前からこうだったのじゃないか?実際、これはリンクフリーではないな。違反したら損害賠償を請求するかもよ、とも書いてある。NYTの記事は誤報や勘違いではなさそうだ。

しかし驚いたのは、読売新聞が1000万部、朝日新聞が800万部、日経新聞が300万部に対し、NYTはたったの92万部で、アメリカで最も売れているらしいウォール・ストリート・ジャーナルですら200万部しか売れていないらしい。これはGoogleとケンカになるわけだ。

で結局NYTの見方は、産経新聞のiPhoneアプリで無料で紙面を読めることを挙げつつ、日本の新聞社は経済危機で広告収入が減ったのでオンライン課金に走ったのだろうが、そのネットに対する考え方は時代遅れだろう、という感じだ。


新聞にはネットで知り得る以上の情報を!

確かにその通りかもしれないが、気合の入った情報には金を出す気はある。しかし実際は、紙の日経を読んでいても情報が浅すぎるし、これならネットだけでも十分ではないかと思うことが多々ある。

特に最近では、iPadやiPhone OS 4.0の発表の記事など「薄っ!」と驚いてしまった。単に出来事を伝えているだけで、表層の情報でしかなかった。日経の記事に載っているくらいのことは、全部ネットで知ってしまっていた。これは当たり前だ。自分はJobs氏のプレゼンを直接ネットで見ているんだから。ネット時代とは、そういう時代なのだ。

こういう状況でわざわざ金を出しているのだから、自分がネットで知り得る以上の情報を新聞社に求めるのは当然のことだ。実際に日経の電子版を使ってみないとわからないことだが、正直言って電子版でそこまでの記事があるのかは疑問だ。しかし、そういう記事がなければ電子版も失敗するだろうし、いつかは紙の新聞も購読されなくなるだろう。

iPhoneで読めるとか便利に検索できるなどの機能も結構だが、自分が新聞社に求めているものはズバリ「ネットで知り得る以上の情報」である。


日経のリンク制限の言い分は言論の自由を自ら制限するということではないのか?

個別記事リンクに賠償請求? 日経サイト方針に大批判(J-CASTニュース) - Yahoo!ニュース

・・・マスコミ各社を初めとする企業のウェブサイトには、外部サイトからリンクを張る際の方針を定めた「リンクポリシー」が掲載されていることが多いが、その内容は各社バラバラ・・・日経のリンクポリシー・・・他社と際だって異なっているのが、「個別記事へのリンク」を明示的に禁止していることと、リンクポリシーに違反した場合は「損害賠償を請求することがあります」と明記されていること・・・日経電子版の前身である「NIKKEI NET」にも同様のリンクポリシーが掲載されており、こちらにも、やはり損害賠償と個別記事へのリンク禁止のくだりが掲載されている・・・ITジャーナリストの佐々木俊尚さん・・・日経は・・・特定株の推奨など市場に誤ったメッセージを与える懸念があります。このため一般紙よりハードルの高いリンクポリシーを掲げています・・・社団法人著作権情報センター・・・著作権法上は問題ないとの見方・・・


どうやら程度の差はあるものの、リンク制限をしているのは日経だけでなく、ほとんどの新聞社がそうらしい。

また、日経電子版の前身の「NIKKEI NET」にも同様のリンクポリシーがあったということは、これは別に、今に始まったことではないという事だ。

自分はよく紙の日経の記事を引用したり、ネットにある新聞社の記事を引用してブログを書くが、リンクすらダメということは、引用も当然ダメと思われる。

著作権法上問題ないと思っていたし実際に法律上の問題はなさそうだが、日経が言う「特定株の推奨など市場に誤ったメッセージを与える懸念」などという理由で禁止されるのは到底納得出来ない。

たとえそういうことがあったとしても、最も言論の自由が必要な新聞社が自ら人々の言論の自由を制限しようというのだろうか?

悪いが、これからも断固続行だ。


「続きはWEBで」ではなく「続きは紙で」が新聞社のあるべき姿では?

結局は、情報をクローズにして電子版を契約してもらおうという、ネット知らずで、先見性もない、こんまい感覚なのじゃないだろうか。アメリカの新聞社と比べると相当売上があると思うが、それでも足りないということなのだろう。なら、リンクポリシーがどうのと言わずに、全部パスワードをかけるなど技術的に完全制限すればよい。その方がこちらも損害賠償請求に怯えることもない。

しかし、この方向はきっと失敗すると直感している。新聞社のためにも購読者のためにもならない。新聞をはじめとするメディアは社会の公器といわれるが、単に情報を制限して社会の公器たりうるはずもない。

逆に、こうしたらどうだろう。ネットにはリンクや引用されてもいいような情報だけ公開して、紙の新聞の宣伝として最大限に使う。制限するより、むしろソーシャルネットワークなどを強力にからめて情報の流布を積極的に奨励する。そして重要で深い記事は徹底的にすべて紙で書く。

つまり「続きはWEBで」ではなく「続きは紙で」だ。

新聞社が価値ある情報がタダで流布するのを恐れるのは当然だ。そう考えると、紙は情報漏洩が物理的に限定されたメディアで、いまだに価値ある情報を記しておくのに最も向くメディアだと思う。コピーや送信が面倒なのが、逆に新聞社にとってはメリットとなるのだ。

そもそも紙の新聞を売ることが新聞社の本来の姿ではないだろうか。ネットは紙の新聞を売るために最大限に活用すればいい。ただ、そのためには「人々がネットで知り得る以上の情報」を得る取材力が必要となるだろう。

昨今よく聞かれる「ネットのせいで紙の新聞が売れなくなる」という話は、自分にとっては新聞社自身の取材力のなさに対する言い訳にしか聞こえない。

NYTの統計を見ても、日本人はまだまだ紙の新聞を読んでいるのだ。今ならまだ間に合う。

日本の新聞社、特に日経には、世界最強の取材力をつけて是非深い記事を書いていただきたい。ひとりの購読者として、これを切に願う。

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